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Volume 07 2013年1月17日
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第7回 “フェーズ別”ERP導入を成功させる6つのポイント

2013年も皆さまに役立てていただける経理関連情報を発信して参ります。
どうぞ宜しくお願いします。

「意思決定の迅速化」や「コンプライアンス対応」、「決算の早期化」や「IFRS」などが動機となり、企業はERP(総合基幹業務支援システム)の導入を考えます。 この10年でERPは経営者にとって必須の経営ツールとなりました。一方で、ERP導入失敗の確率(期待した成果が得られない確率)は60%とも言われています。
企業が競争力を向上する上で、今後益々重要な役割を担うERP。導入に際して大きな費用と長い時間、そして社内の労働力を投入する必要がありますが、どうしたら期待したリターンを確実に得られるのでしょうか。今回は、SYSCOM (USA) 業務ソリューション事業部ゼネラルマネージャーの山浦守氏にお話を伺いました。皆様がERP導入を考える際の参考にして頂ければ幸いです。

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SYSCOM (USA) INC.
設立22年目のIT総合ソリューションプロバイダー。
日米、中南米向けに国際/米国内ネットワーク構築設計、導入、24時間保守業務を行う。
業務ソリューション事業部門では、Microsoft GP/NAV/AXのERP製品群を中心に、導入、サポート業務を行っている。
ウェブサイト:http://www.syscomusa.com/
問い合わせ先:sales@syscomusa.com
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【インタビュー】

■ 導入全般について ■
一昔前と比べ費用も下がりERPの導入を考える企業は増えているように思います。ただ、敷居が低くなったものの、導入しても期待通りの結果が得られなければ元も子もありません。プロジェクトを成功させるにはどうすればいいのでしょうか。様々な要素が絡み合うため答えはシンプルではないと山浦氏はおっしゃいます。山浦氏によれば、

導入前に最も大切なのは、(ERPの導入によって)「そもそも何を成し遂げたいか、が明確になっていること」
また、導入後に大切なのは、「ERPは導入して終わりではない、という意識。」

だそうです。手段であるはずのERP導入自体が目的になってしまわないよう、導入の本来の目的を常に意識するのは非常に大切です。また導入後に関しては、特に最近主流となっているパッケージ・ソフトの場合、一般的なモジュールをどう社内のプロセスに合わせて行くかが重要なポイントになると山浦氏は指摘されます。SYSCOMではERPの導入後、通常は一年以上に渡り、実際の稼動状況を見ながら最適化を図るそうです。

次に、導入決定から導入後のフォロー・アップまで、それぞれのフェーズで押さえるべき“ツボ”を、山浦氏にお伺いしてみましょう。

■ 導入決定 ■
最適なERP導入のタイミング、クライアント企業の“導入適齢期”はあるのでしょうか。
もしあるとすれば、どのように判断すればよいのでしょうか。

「今のシステムが古くなったという理由だけでERPを導入してもプロジェクトはうまく行きません。
なぜなら、(導入判断の)決定要素は、その企業のビジョン(中長期全社ゴール)や経営戦略となるべきだからです。
よって、ビジョンや戦略実現にERPが必要な時が、“導入適齢期”と言えるでしょう。」

経営者層がKSF(Key Success Factor:成功要因~何を以ってプロジェクトの成功とするのか)を決定し、社内で共有することが重要だと山浦氏は指摘されます。その上で、各種の制約条件(時間、費用、戦略上の優先順位や許容できるリスクなど)を考慮し導入するか否かを決定するとのことです。

ただ、米国子会社の場合、日本本社主導で導入に至るケースもあると思います。そういった「本社の指示で半ば一方的に導入が決定するケース」ではどのような点に注意すべきなのでしょうか。もちろん、そのような場合でも(米国子会社内の)社員が納得することが重要だと山浦氏は指摘されます。

全員の賛成を得ることは難しいとしても、「会社は説明責任を果たす必要があります。ERPの導入でどういった効果が得られるのか、なぜERP導入が会社のビジョン達成に必要なのかなど、丁寧に説明することが重要です。」

後々プロジェクトの成否に大きな影響を与える要素であるため、KSFの定義といったことから時間をかけてしっかりと取り組むべきとの指摘は、皆さんも納得できるのではないでしょうか。

■ システムの選定 ■
導入が決まり、次にシステムの選定となります。ただ、いろいろな種類のERPがあるために、クライアント企業の皆さんも本当に迷われると思います。例えば、導入前に実際の稼動状態を見る方法があれば、もう少し導入後のイメージが沸きやすいと思うのですが・・・

「最近主流になっている“パッケージ・ソフト”を使ったERPシステムの構築は、モジュールを組み合わせてゆくイメージです。それぞれのモジュールは、導入前からある程度稼動状況を見ることができます。口頭での説明だけでなく、実際の画面をご覧いただくことで、システム選定の判断がしやすくなります。クライアントの要望に合わせ、ほぼゼロから組み上げてゆく“カスタマイズ・ソフト”ではこれができません。」

これはMicrosoft Dynamicsのようなパッケージ・ソフトの強みの一つのようです。これならERPの経験のないユーザーでも、導入後のイメージがつかみやすいのではないでしょうか。

「弊社では、システムの選定時にはPIA(Pre-Implementation Analysis)を実施し、クライアント企業に最も合うシステムを決定しています。」

山浦氏によれば、具体的には、組織目標(ビジョンや経営戦略)、ビジネス・モデル/組織形態の複雑さ、システムの機能の充実度合、費用、企業/国の文化などを考慮し、クライアント企業が納得できるようシステムが選定されるとのことです。

■ 導入時 ■
いよいよ実際の導入となるわけですが、せっかくここまでしっかりと準備してきたのですから、クライアント企業側としても是非導入プロジェクトを成功させたいはずです。では、一旦導入フェイズが始まってからは、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。
プロジェクト運営に関して留意すべき点はいくつかありますが、特に重要なのは次の2点だと山浦氏はおっしゃいます。一つは、方法論に則ったプロジェクト管理をするということ。特にプロジェクトの規模が大きい場合、担当者一人ががんばっても成功はしません。ここで組織的な対応が必要になります。具体的には、

「クライアント企業内でPMO(Project Management Office)を立ち上げ、Project Managerやその他の直接の担当者を決め、役割を明確にしておくことが重要です。導入中はスケジュールなどの変更は必ず起きますので、変更が起きたときにどのように対応すべきかを決めておくこともProject Managerの大切な任務となります。例えば、何かが起きた際には、クライアント側のProject Managerとベンダー側のProject Managerが話し合い、ひとつひとつ解決していくことになります。」

もう一つはコミュニケーションの問題です。社内の合意形成に時間がかかりプロジェクトが遅れてしまったり、それによってコストも膨らんでしまったり・・・  プロジェクト運営の経験がある皆さんなら納得されるのではないでしょうか。山浦氏は指摘されます。

「ERP導入のプロジェクトでは、技術的な問題もさることながら、技術的でない問題、主に「コミュニケーションの問題」は、プロジェクトの成否に大きな影響を与えます。この領域に関して弊社は豊富な経験を有しており、時には日本本社と米国子会社、あるいはマネージメントと社員の間に入り、プロジェクトのリスクを軽減する努力を惜しみません。これは弊社の強みの一つだと思います。」

やはり、ベンダーがプロジェクトに与える影響は大きそうです。

「例えば、弊社のコンサルタントはトレーニングを受けたり、書籍などで常に知識をアップデートしています。加えて現場は学びの大変貴重な機会になっています。システム・プロバイダー側でも、導入に関する方法論を用意し、ベンダーとクライアントを支援する体制を築いています。例えば、Microsoftは“メソドロジー”と呼ばれる独自の方法論を提供しています。私たちはそれにアレンジを加えそれぞれのプロジェクトに活用しています。弊社が独自に培った経験やノウハウを組み合わせることもERP導入を成功に導く上で欠かせない要素となっています。」

お金と時間と労力をかけた大切なプロジェクトですから、最適なパートナー(ベンダー)と組めるのが理想なのですが、不幸にしてうまく行かない場合もあると思います。導入が始まってからベンダーを変えることはできるのでしょうか。山浦氏によれば、

「コンサルタントがよく変わるなどの理由でベンダーに不満を持ち、弊社にご相談を頂くこともあります。コンサルタントの当りはずれもありますから、クライアント企業の努力だけでは防げないこともあります。一般的に、汎用性の高いパッケージ・ソフト”(例えばMicrosoftのDynamicsシリーズなど)ではベンダーの変更が可能なのですが、 “カスタマイズ・ソフト”では、当然、難しくなります。」

導入自体も非常に気を遣いますが、導入後にも問題はあります。システムの導入が完了し、トレーニングも済んだとしても、使い始めないと分からないことも多いのではないでしょうか。皆さんも経験はありませんか。例えば、経理に関して言えば、月次、四半期、年次決算と、その時初めて行う処理も多くあります。このような導入後に発生した問題にはどのように対応すれば良いのでしょうか。山浦氏によれば、実際に使い始めてみないと分からない問題は必ず存在するようです。

「冒頭で申し上げたように、(ERPを)導入してしまえばそれで終わり、ではありません。そのため、弊社では導入後の“オペレーション・サポート”にも力を入れています。例えば、マニュアルの作成や、作成したマニュアルのアップデートをお手伝いするのもその一環です。こうしたマニュアル類は、自社のアセットにもなりますし、将来、業務改善する際の大きな助けになります。」

ここまでで、導入自体の検討、システムの選定、導入、導入後のメインテナンスまでのプロセスについてお伺いしたのですが、これだけエネルギーを使っても、やはり想定外の事故というのは防ぎ切れないと思います。日本では3・11、米国東海岸ではSandyが記憶に新しいですが、最後に山浦氏に、BCP (Business Continuity/Contingency Plan)に関してコメントを頂きました。

「一口にBCPと言ってもそれぞれの企業によって必要となる対策は大きく異なります。ですので、自社のリスク許容レベルに応じて対策を立てておく必要があると思います。弊社も実際に支援していますが、復旧までに許される時間や、必要バックアップ頻度などの要因により、プランのデザインは大きく変わります。例えば、復旧までの許容時間は銀行とメーカーでは違いますし、求められるデーターバックアップの頻度も異なります。それらを根拠を持って決めることがBCP設計の際に重要となります。」

今回のインタビュー、いかがでしたでしょうか。
ERP導入では、それぞれのファンクション(営業、製造、流通、財務、経理、IT、人事など)の担当者を巻き込むことも、プロジェクト成功の重要な鍵の一つとなります。
経理業務のレビューなどをお考えの際には、是非お気軽にPASONAプロフェッショナル・サービスまでご連絡下さい。

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